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局内にある限られた喫煙部屋は、ほぼ決まった人物のみが利用している。
中でも、ベビースモーカーの神野仁が籠っている時は、暗黙の了解で誰も相席しないことになっていた。
いつものように、神野が独り静かに煙を吐き出していると、ノックもしないで不躾に押し入る者がいた。
ジン・ギャルの中でも、最も神野の覚えがめでたいとされている野瀬カナコだ。
チラリとカナコを見やると、神野は面倒臭そうに顔を背けた。
「ジンちゃん、あの女に乗り換えるの?」
「局内で、その呼び方はやめろ。あの女って、誰?」
「天崎倫音よ。ジンちゃん、この頃、あの女ばかり贔屓にしてる」
忠告を無視した上に、くだらない嫉妬話を始めたカナコにうんざりしたのか、神野はハァーッと強めのため息をついた。
「だいたい何だよ、乗り換えって…ケータイ電話じゃあるまいし。俺はお前と専属契約を結んだ覚えはないぞ~」
言葉尻を捉えて揶揄するように返す神野に、カナコは顔を真っ赤に染めながら反射的に告げた。
「私、妊娠したかもしれない」
「はぁ!?」
今度はため息でなく、明らかに声に出し、侮蔑の表情を向ける。
「『したかも』って何だよ。曖昧なことで俺をゆする気か? 俺の子かどうかも分かったもんじゃないのに」
「なっ…」
「お前が色んなところに営業かけてるの、俺が知らないと思ってんの? はっきりした証拠を出してから言えよ!」
吸いさしのタバコを灰皿に押し付けると、神野は大きく舌打ちをした。
「あ~、気分悪いわ。他で一服し直そ」
そう言いながら振り向きもせず立ち去る神野を、カナコは震えながら見送るしかなかった。
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