3.倫音、飛び込む。

3/16
前へ
/72ページ
次へ
和やかながらも厳かな和室の空間に、不似合いな電子音のメロディが軽快に鳴り響く。 神野の所有するスマートフォンからだった。 「ちょっと、失礼します」 手刀を切りながら申し訳なさそうな表情で席を外す神野に、上座の誠は身振りで『かまわんよ』と伝えた。 「彼も忙しい男だからね」 理解を示す誠に、倫音も静かに頷いた。 しばらくして戻ってきた神野は、息を切らせながら頭を下げた。 「すみません、急な仕事が入ったので、お先に失礼させていただきます」 「ああ、それなら私たちも…」 腰を上げかける誠を、慌てて神野が制する。 「いえ、社長と天崎さんは、ごゆっくりなさってください。締めのデザートもありますので…」 そう言いながら神野が目配せをする。視線を合わせず、倫音は会釈を返した。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加