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「びっくりしちゃった。突然、大画面に天崎さんが映るんだもん」
バー『S』のソファー席で春生をあやしながら、佳乃が興奮冷めやらぬといったテンションで告げた。
『おふくろ料理 恵子』が定休日の木曜夜。
正確な年齢は謎のままの恵子と、もうじき2歳になる春生の合同誕生日パーティーが、倫音・タカシ・アキラという毎度の面子によって催されていた。
「派遣会社の面接へ行ったら、オーディションに出るよう指示されました」
春生を挟んで佳乃の隣に腰掛けた倫音は、梅酒のソーダ割りを飲みながら他人事のように淡々と答える。
「『C・プロモーション』でしょう? あそこはモデル事務所も併設されてるからね」
いつもの割烹着ではなく、戦闘服といえるボディコンスーツを纏った恵子は、一人占めしたカウンター席から振り返りながら、事情通のように語った。
「もしや恵子ママ、モデルも経験ありとか…」
「はい、ビンゴー!」
佳乃の問いに、恵子は腕を垂直に上げて返答する。
「もう驚きません」
「何よ。すっかり肝が据わってきたわね、佳乃ちゃん」
以前のように、むやにみ驚かなくなった佳乃に恵子は「つまらんなぁ」と苦笑いしつつ、焼酎の水割りをお代わりした。
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