1.倫音、選ばれる。

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「ねぇ、平日とはいえ、繁盛してないわね。大丈夫、タカシ?」 カウンターから顔を覗かせた主のタカシは、呆れたように忠告した。 「だから、今夜は『貸し切り』。これ言うの3回目!」 「まだ、そんな飲んでないっすよね」 こっそりと指示されたアキラは、バレない程度に薄めに作った水割りを恵子に差し出しながら余計な一言を付け加えた。 「加齢で酒に弱くなるって…迷信じゃないんすね」 「そうそう、加齢でっ…て、まだ還暦まで干支が一回りできるわ!」 「()(うし)(とら)…」60から干支の数を指折り引いて確かめると、アキラは感嘆の声を上げた。 「恵子ママ、俺の母さんより年上っすか」 「アーキーラ~。薄い!」 ドン! とグラスを強めに置くと、ちょうど恵子の手元にあったテレビリモコンが反応し、スイッチが入った。
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