三日月の声

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 太陽の陽射しが差し込み、咲田の部屋明るく、よく見えた。咲田は絵を描いている背中が見え、その先には浴衣を着た黒髪の女がいた。和也は目を細めた。モデルをしている女は昨日見た三つ編みのセーラー服の女の子、「ひとみ」だった。そのひとみと言う女の子は整った顔をしていて、少し年上に見える。浴衣の淡い緑がよく似合い、ほっそりとした体、柔らかな頬、下向きの目は憂いを感じる。ただ立っているだけなのに、絵になる。  咲田が手を止めた。  「一度休憩しよう」  そう声をかけると、ひとみはふーっと息を吐き、にかっと笑うと子どもらしさが現れた。  「何か飲む? それとも食べる?」  ひとみはまたにかっと笑いながらお腹をさすった。  「食べたいのか…食パンだけでもいいか? 今月もお金が厳しくて」  咲田が肩を落とすと、ひとみは歩み寄り、首を振った。そして、咲田と目が合うとにかっと笑う。  和也は数日、ひとみと咲田とのやり取りをみて、ひとみが話すことができないことに気が付いた。おそらく、ひとみも春休みなので毎日、咲田の部屋へ来れるのだろう。  和也は毎日、朝の九時に来るので少し前に、近くの自販機で買いに外に出たと装って、出て見た。自販機で水を買おうとしたら、あの足音が聞こえてきた。わざわざ学校がないのに制服で来るひとみ。目線を下にしたまま、ひとみは和也の後ろを通り、真っ直ぐとアパートへ向かう。和也は部屋に戻ると、カーテンを開け、部屋を見た。たくさんの段ボールがあの日からそのままだ。一つため息を付くと、和也は電話を掛けた。  その日のうちに運がよく、古本屋を渡せ、思っていたよりも多い金額をもらえた。明後日は引っ越しの日。和也は画材屋で粘土と絵の具を買いに出かけた。
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