三日月の声

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 「川口さん、でよろしかったでしょうか…」  それほど大きな声ではないが、日登美は口にした言葉に和也は立ち止った。  「…話せたか…」  「…やっぱり」  日登美は笑ったが、咲田に見せる明るい笑顔ではないのが一目でわかった。和也は座り、面と向かって日登美を見た。  「ご注文はいかかいたじましょうか?」  店員の一言で和也は店員の気配すら感じられないほど、日登美に集中していたことに気付かされた。  「…アメリカンコーヒーを」  「わたしはロイヤルミルクティーで」  店員は復唱し、軽く会釈してからカウンターへ向かった。  コーヒーの湯気が揺らめくのを眺めながら二人は長い沈黙を破った。  「…深沢さん…話とは?」  「あなたがあの穴から覗いていたのはすぐにわかりました」  和也は目を見開き、赤面した。  「…わたしも見ての通り高校生ですし、何か怪しいことをしていると通報されるのが困るので、どうか誰にも話してほしくなく、そのお願いのため、無理なことを言ってここにきていただきました」  鋭い口調。和也は少し黙った。でも、すぐにくすっと笑った。 「…ぼくはもうこの町をもう離れることになっているんだ。だから、安心して、話さないし、何よりもぼくは細かいところは知らない…正直言うと、少し会話を聞いていて、君は…話せないと思っていた」
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