8

8/11
1215人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「……大人っぽくなったね」 「……だってもう二十九だし……」 「まだ三十路も来てないんだよねぇ。僕なんか五十路になったっていうのに」  年齢のことなんか言っても仕方がないのは分かっているけど、ついつい笑って自虐してしまう。それほど川原くんはやっぱり綺麗だった。華奢ではなくなったが、ごく自然に備わったしなやかな筋肉、僕のように必死に体を鍛えなくても引き締まったフォルムだ。川原くんの曇りのない眼が僕を見上げている。間近で目を合わすのが怖くて恥ずかしくて、僕はわざと雨雲ばかり見ていた。 「入れ違いになってごめんね。着いたらすぐに連絡を入れておけばよかったのに、あんまり早く着いたから散歩でもしようと思ってウロウロしてたら、川原くんを待たせることになってしまった。……会えるんだと思ったら落ち着かなくてね……。でも、あのまま港で待っててくれたら良かったのに」 「……俺も会えると思ったら落ち着かなくて、無理言って仕事早めに切り上げさせてもらったんです。待ってたほうがいいだろうなって分かってたけど、……やっぱりじっとしてられなくて、気が付いたら走ってました……」  やっと川原くんに顔を向け、目が合った。言葉もなく見つめ合う。大きな黒目、張りのある頬、前髪から落ちた雫がフェイスラインを辿る。濡れて張り付いたTシャツに肌が透けていて、凄まじい色気に眩暈がした。川原くんの唇が少し動いた時、僕は意識より先に体が動いて、その唇にキスをした。応えて川原くんも僕の背中に腕を回してしがみつく。今までしたこともないような激しいキスだった。舌を絡め、下唇を吸い、歯をなぞる。互いの口から苦しげな息遣いが漏れ、それでも足りないと押し付け合った。服が濡れているせいで、体が密着すると筋肉の有り様を生々しく感じる。一気に昂ったこの情欲を抑えようがなかった。いくらひと気がないとはいえ、外で、神社という神聖な場所で欲望を剥き出しにするなんて。しかも親子ほど年も離れていて、本来なら相容れない同性同士で、こんな禁秘なことが許されるのだろうか。  ここまできたら許してくれるだろう。十年間、愛に飢えて孤独に過ごして、ひたすら想い出だけで生き延びた。後ろめたさも引け目もあるけど、また手放したら今度こそ僕は寂しくて死んでしまう。もし後ろ指を指されるようなことがあっても、この子だけは僕が必ず守るから、どうか一緒にいたい。  いくらそんな誓いを立てても、願い事の傍らで、まさか神様の前であられもなく肌を重ねていたのでは説得力もないだろうけど。  キスに喘いで、柱に川原くんを押し付けて白い首を貪り、腰や背中を撫でながら性器までも弄った。目で見て、肌で感じて、声を聞いて、こんなに性欲に支配されたのは何年振りなのか。四十後半から反応が遅くなった僕のものも珍しく脈を打っていた。それに気付いた川原くんがそこに手を伸ばし、ジッパーを下げ、下着から覗いたそれを揉んだ。脳が麻痺する。僕は川原くんの手で大きくなった自身を、彼の雄に擦り合わせた。川原くんが震える手で僕たちをゆっくり扱く。もどかしくてその手の上から手助けをした。川原くんは耳を赤くして、今にも溶けそうな表情ではあはあと息を乱した。手の平に溢れる僕たちの性欲は、とても熱い。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!