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 新しい支店はそれなりに忙しかったが、仕事で苦はなかった。新しい上司は気のいい人だし、優秀な部下が多い。持ってくる稟議書にほとんど不備はなく、必要な書類と、もっと掘り下げるべき項目を伝えると忘れずにきちんと仕事する。当たり前のことかもしれないが、その当たり前のことができない人間も多いので、部下がしっかりしているととても助かるのだ。  問題、というより、悩みはどちらかと言えば家庭だった。僕が支店を変わると伝えた時もかなえは興味がなさそうだったが、変わってからも「新しい支店はどう?」などと聞いてくることもなく。時々、自分から話すことはあっても大抵は「ふーん」で終わらされる。僕の仕事に興味がない、というより、もう僕そのものに興味がないのかもしれない。  特にさくらは接し方が分からない。女の子で尚且つ思春期なので、何をどう話し掛ければいいのかさっぱりなのだ。 「今までずっとT高に行くって言ってたのに、どうして急に変えるのよ!」  ある日、仕事から帰るとかなえとさくらが言い合う声が玄関まで届いた。 「志望校なんて今からでも充分変えられるじゃん! あたし別にT高行きたくないし!」 「せっかくT高に行けるだけの成績なんだから、目標は高いほうがいいのよ! なんだってわざわざレベル下げなきゃいけないの!?」 「どうしたんだ」  険悪なムードだったので、さすがに見過ごすわけにはいかず、割り込んだ。かなえが興奮気味に言う。 「さくらが急に志望校変えるって言い出したのよ。しかもK高」 「……あそこは芸術関係の高校だろう」 「そうよ、学力的にはT高より劣るし、何より、この子、美術の成績が特にいいわけでもないのに、なんで芸術系に進むのか意味が分からないの!」 「今から画塾に行って、絵の勉強もする! まだ中二の冬だもん!」 「『もう』中二の冬よ! 今から画塾に通って間に合うとでも思ってるの!? 大体、どうしてK高にこだわるのよ!」 「もういい!」 「さくらッ」
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