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 ―――  翌日、部下と一緒に取引のある企業を回った。支店が変わってから僕はあまり外に出ることがなかったのだけど、取引先の経営状況を探るために、時々外出することがある。ようは企業の粗を探しに行くようなものだ。決して楽しくはないが、この日は運が良かった。十社ほど回って、最後に訪ねた企業が、あの駅の近くにあったからだ。しかも時間はちょうど五時頃。僕は取引先の訪問を終えたあと、一緒に行った部下に「先に戻っていてくれ」と多くは語らず、店に帰した。  川原留衣に会えることを期待して、わくわくしながら噴水を目指す自分がいる。けれども、駅前の噴水に川原留衣はいなかった。周辺を見渡しながら歩いてみたが、赤毛の青年などどこにも見当たらない。  少しどころか、すごくガッカリしてしまった。もともと知り合いでもなければ約束もしていないのだから、いない可能性があるというのは容易に考えられることなのに。ここに来れば必然的に会えると勝手に信じて、期待が外れて勝手に落ち込む。それほど僕は彼に会いたかったのだ。   『こんばんは。突然このようにメールを送り付けて、申し訳ございません。僕は福島と申します。以前、駅前広場の噴水で家族写真の絵を描いていただいた者です。あれからふた月ほど経ちますが、いかがお過ごしでしょうか。あなたに描いていただいた絵は、いつも手帳に入れて大事にしています。あの時は本当にありがとうございました。  ところで、本日、所用で駅前広場に行きました。もしかしたらお会いできるだろうかと思ったのですが、どうもタイミングが合わなかったようです。今もあそこで絵を描いていらっしゃるのですか? 福島』
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