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「川原くん、こ、こんにちは」 「来て下さったんですね、ありがとうございます。 興味のある展示ありますか?」  モネを、と言おうとしたら「僕は現代アートのほうにいます」と続いたので、あっさり方向転換して「現代アートを」と口にした。我ながら滑稽だ。チケットとパンフレットを買い、川原留衣に連れられる。 「僕は出口付近でいますので、どうぞ楽しんで下さい」  一緒に鑑賞するのかと思いきや、入ってすぐに川原留衣は他へ行ってしまった。……それはそうだろう。彼にも仕事があるのだから。  それにしても現代アートというのは意味不明だ。一体なにをモチーフにしているのかというような不気味なオブジェが並んでいたり、キャンバスに電球のようなものが貼り付けられているだけだったり、こう言ってはなんだが「素人の僕でも作れそうだ」と思うようなものばかりで、いまいち良さを見出せない。 『Contemporaryを求め、現代社会の情勢を反映した、従来の芸術の概念に囚われない新しい表現うんぬんかんぬん……』  要は難しいらしい。やっぱりモネにすればよかったと後悔もしたが、何も考えずにぼんやり眺めているだけでも暇つぶしにはなる。日々の仕事のストレスとか、家庭の悩みもこういう場所にいると非現実的なものに思えて気分転換になった。美術館の空気は嫌いじゃないのだ。  一時間ほどかけてギャラリーを回り、出口へ向かうと川原留衣が待っていた。
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