2

9/15
前へ
/134ページ
次へ
「バイトで疲れているのに、なんだか無理させちゃったみたいで申し訳ない、川原くん」 「だって、お誘いしたのは僕ですし」 「ごめんね、僕があんなメールを送ったりして、美術館にまで来たから、気を遣わせちゃったんじゃないかな。……驚いたよね」 「ビックリはしましたけど、僕の絵を大事にしてくれて、気に掛けてくれて、しかもこうしてわざわざ遊びに来て下さって、嬉しかったです」  川原くんは冷やを持って来たウェイターにジンジャーエールを注文し、唐突に話に入った。 「もしかして、僕に何か御用でもありましたか?」 「えっ? あっ……」  僕が彼に連絡をしたのは、用事があるからだと思っているようだ。特に用などないが、ここは何か言っておかないといけない気がして、必死に理由を考えた。 「娘の……ことで……」 「娘さん?」 「中学二年生でね、娘。次は中三で受験生になるんだけど、今の時期からもう志望校を絞るみたいでさ。……で、つい先日、娘が急に志望校を変えたらしくて。美術の成績がいいわけでもないのにK高に行きたいんだって。僕はその道に疎いからよく分からないんだけど、やっぱり芸術関係の高校に行くとなると、その後の進路や就職先も限られてくる……よね? きみは美大生だから、そういうのに詳しいんじゃないかと思って、相談させてもらいたかったんだ」  咄嗟のわりにはなかなかそれらしい理由だ。さくらの志望校の変更先がK高でよかった。こんなところでそれを使うのは狡いだろうが、さくらを心配しているのは事実だし。  川原くんは「うーん」と少し首を傾げた。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1225人が本棚に入れています
本棚に追加