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「ごめんね、気持ち悪い真似して」 「全然。興味を持ってもらえるのはやっぱり嬉しいですから」 「でも、僕がもし悪い奴だったらどうするの」 「福島さんはそんな人じゃないって分かります」  なんて優しい子なのだろう。職場の部下にも「こいついい奴だな」と思う人間は何人かいるが、人の優しさがこんなに沁みたのは初めてかもしれない。普段、触れ合うことのない若者とコミュニケーションが取れて、僕は相当舞い上がっているようだ。川原くんの笑顔や、ジンジャーエールを飲む仕草や、ふわふわと揺れる赤毛のすべてが眩しい。思わず嫉妬するほどに。偶然駅前で見かけた絵描きとこんな風に向かい合ってお茶をしているなんて、今まで凡下な人生しか歩んでこなかった僕にとってはドラマティックな状況だ。もしかしたら、スポットライトを浴びることのなかった寂しい僕に、少しくらいは楽しませてやろうと神様が慮ってくれたのかもしれなかった。  プライベートを家族以外の誰かと過ごして新鮮な休日を送ったからか、川原くんと別れてからも僕はどこか華やいだ気分だった。「楽しかったです、ありがとうございました」とお礼のメールを入れれば「こちらこそ、ありがとうございました。楽しかったです」と返ってくる。僕の言葉に、言葉を返してくれる。そんな単純なことがこんなにも嬉しい。
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