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「お前って、悩み事なさそうだよなぁ」
これがよく言われる褒め言葉だった。
実際、たいした悩み事などなかった。勉強で苦労したこともないし、スポーツができなくて馬鹿にされたこともない。かと言って、持て囃されたこともないが。
自分の実力に見合った高校、大学へ進学。すべてにおいて平々凡々に生きてきたため、特に胸を張れるような趣味も特技もない。就職も分相応の企業に入るのだろうと漠然と思っていたら、やはり「地元では一番大きい」銀行に内定が決まった。ノルマに頭を悩ませることもあったが、これもまた「そこそこ」の成績だったので、妥当に昇級していった。
たぶん僕はこのまま普通の男で、普通に生きて、普通に死んでいくのだろうと思っていた。そして別にそれでもいいか、と。
だが、そんな絵に描いたような平凡な人生に壮絶でドラマティックな出来事があったのは、僕が四十歳の時だった。
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