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「今週末もちょっと九州に帰るから」  ベッドに入ったところで、かなえが化粧水を塗りながら言った。三面鏡越しに目が合ったが、すぐに逸らされた。 「何かあるのか?」 「ちょっとね。……父の脚の具合が悪いみたいで」 「正月に会った時は元気そうだったじゃないか」 「あなたには気丈に振る舞ってるだけよ」  ヘアクリップを解いたかなえは「さてと」と、隣のシングルベッドに入る。話はそれで終わったようだ。僕はこの勢いでさくらの話を切り出そうかと思ったが、「電気消してね」と背を向けられたので、タイミングを逃した。一応、同じ寝室では寝ているけれど、それぞれのシングルベッドで寝ている。一緒にいるようでいないようだ。サイドテーブル分の距離がやけに遠い。
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