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 ―――  いつでも話を聞きます、と言ってくれたものの、こう何度も相談しては迷惑だろう。 ……と、言い聞かせながらも川原くんに助けを求める自分がいる。川原くんがこの一週間、画廊で大学の仲間とグループ展をしていることをSNSで知った。今週末が最終日らしいので、よかったら時間が空いたら相談に乗ってくれないかと図々しくもお願いしたのだ。返事には面倒臭がったり、嫌そうにする素振りなど微塵もなく、快く引き受けてくれた。メールなんて取り繕おうと思えばいくらでも作れるけれど、本心かそうでないかくらいは文面で分かる。やはり彼は優しい子なのだ。  まるで図ったかのように、かなえとさくらは土曜日の朝から九州へ向かい、僕はまたしても自由の時間を得た。さっそく余所行きの服を選んで、グループ展をしているという街中の画廊へ急いだ。賑やかなアーケードから一本路地に入ったところにある、古くて小さな画廊だ。学生の開く小さな展覧会のわりには客が多いように思える。受付の女の子から絵葉書を受け取り、こっそり見て回ろうと人の波に紛れていた。よく知らない人の作品はそこそこに見て、川原くんの絵を探していると、 「福島さん」  以前よりも気軽に声を掛けられた。相変わらず眩しい川原くんである。 「こんにちは、今日はごめんね。大丈夫だったかな」 「僕はいいんですけど、お待たせすることになるかも」 「ああ、それはいいんだ。ゆっくり見たいから。川原くんの絵はどこなの?」  こっちです、と案内してくれたのは、港を描いた油絵だ。僕の上半身分はあるだろう大きなキャンバスに、港の夕暮れがいっぱいに描かれている。船の汽笛が聞こえてきそうな臨場感。やや淡めの色使いがずっと眺めていたいくらい優しい。 「素敵だね」 「いや……そんなことない、です……」  耳を赤くして俯くのが初々しい。照れると頬を掻くのは癖なのだろうか。
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