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 せっかくなので久しぶりに駅前のコーヒーショップのコーヒーを買うことにする。持参したお菓子を店で食べるのは気が引けるので、テイクアウトにして駅前広場の噴水でコーヒーところころパイをいただく。いつも仕事中に飲んでいたものを休日に飲むと変な感じだ。行き交う人々も、人口は違うし層も違う。どちらかと言えばサラリーマンの多い平日と違って、休日はあきらかに家族連れが多い。社会で戦う戦士たちも、休みの日は慎ましく過ごすのだ。一方で、僕は平日だろうが休日だろうが変わりない。仕事があるかないか、スーツか私服かの違いだけ。一緒に過ごす人がいない。結局いつも同じ道、同じ店しか行けない。あまった時間の使い方が分からない。俯くと足元にあった落ち葉が風に吹かれて飛んで行った。 「……趣味でも始めようかなぁ」 「じゃあ、水彩画とかどうですか?」  思いもしなかった返しに驚いて顔を上げた。目の前に川原くんがいる。息を切らせて、柔らかそうな赤毛を乱して、鼻を赤くした川原くんだ。 「まぼろし……?」 「そんなわけないでしょう」  ははっ、と無防備に笑った。川原くんとの約束はなかったことになったはずだ。 「約束してたのにひどいじゃないですか」 「だって、友達と集まるんじゃ」 「もともと僕は行く気なかったんです。あ、グループ展は無事に終わって、画廊も撤収しました。来て下さってありがとうございました」 「こちらこそ……」
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