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 僕は感激して泣きそうだった。いくら友達との約束がなかったとしても、普通はどこの馬の骨だか知らないオッサンをわざわざ追い掛ける子なんていないだろう。よほど律儀なのか、それとも、そんなに僕は哀れに思えたのだろうか。どちらにせよ川原くんが僕を探すために汗を流してくれたと思うと嬉しくてたまらなかった。 「あ、コーヒー飲める? 買ってくるよ」 「いや、ペットボトル持ってるんで大丈夫です」 「じゃあ、これ食べる?」  ころころパイを差し出したら、今度は遠慮がちに受け取ってくれた。隣に腰を下ろした川原くんは、サクサクと小気味いい音を立てながらパイ生地をかじった。カスタードクリームに辿り着いた時、「ん」と目を見開く。 「美味しいですね!」 「そうだろ? あとひとつあるけど、いる?」 「福島さんは?」 「僕は食べたから」  半分になったころころパイを口に放り込み、最後のひとつに手を伸ばす川原くん。餌付けしているような気分になるが、にこにこと美味しそうに食べる姿は可愛らしい。『ふるーら』の奥さんに見せてあげたいくらいだ。口の端に付いているクリームを、つい子どもにする感覚で指で拭いそうになった。
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