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さくらが小さい頃は、よく頬についたご飯粒を取ってやったものだ。口の周りをベチャベチャにしていた、このあいだまで赤ちゃんだった子が、いつの間にか恋愛する年になったのだから月日の流れに困惑せずにはいられない。
ごちそうさまでした、と、川原くんは口の端のクリームをペロリと舐めた。
「きみはとても……表情が豊かだよね」
「そうですか?」
「嬉しいことは嬉しい、美味しいものは美味しいと口に出せる。礼儀正しくて誠実だし、親御さんの育て方が良かったんだろうね」
「僕ももうすぐ二十歳ですから。それに、親には愛想悪いですよ、僕」
「そうなの?」
「親って、何かとうるさいし鬱陶しいじゃないですか。友達には喋ることも親には喋らない、なんてことよくありますし」
「そうか。……じゃあ、娘もそうなのかな」
「相談って娘さんのことですか?」
「そう」
僕はさくらとのことを少しずつ打ち明けた。
いつからか僕にはほとんど笑顔を見せなくなった。思春期の女の子への接し方が分からないから、いつも機嫌を窺うばかり。娘のSNSを勝手に見てしまい、高校の志望理由に落胆したものの、それをどう本人に諭せばいいのか分からない。
返ってきた川原くんの答えは、簡単なものだった。
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