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 ーー 十年前 「本当にすみませんでした、福島課長……」  深々と頭を下げる部下の栗田に、僕は内心「まったくだよ」と悪態をつきながら「いいよ、いいよ」と宥めた。栗田のミスで取引先に迷惑をかけたので、電車で二時間かけて一緒に謝りに行ったのだ。七千万の振込み日を間違えたのだから「いいよ、いいよ」で済まされる話ではないのだが、まだ新人の栗田にそんな取引を任せた僕にも責任があるのだから、説教はほどほどにしたい。幸い、先方も許してくれたので、この反省を次回に活かしてもらえたらいい。 「帰ったら支店長にまた説教されるかもしれないけど、それは仕方ないからね」 「はい、以後、気を付けます」  栗田はそう言ってもう一度頭を下げた。生え際が黒くなった、陽が当たると明るくなる茶髪。入行したての時に「地毛なんです」と言っていたのが怪しいとは思っていたが、やはり染髪か。「以後、気を付けます」は、本心なんだか。
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