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 風が強くなってきたので、場所を変えようと促した。あてはないが、フラフラと連れ立って歩く。川原くんの薄いウィンドブレーカーが寒そうなので、自分が首に引っ掛けていた気休めのマフラーを貸した。冴えないグレーのマフラーも、川原くんが巻くと途端にハイセンスになる。 「おおっぴらに言えたことではないんだけど、実は娘だけじゃなくて、妻とも普通の会話すらしづらくって。よくあるでしょ、年頃の娘と母親がタッグ組んで父親を邪険にするの。邪険ってほどじゃないけど、あんな感じかな。話も碌にしないし、お互いに興味がないのが伝わってしまっている」  川原くんが少し遅れて歩くのは、返事に困っているからだ。僕は振り返って、変な話をしたことを詫びた。川原くんは微笑して首を横に振る。 「川原くんは? ご両親と仲良い? 思春期には色々あっても、それが過ぎれば対等に話せるんじゃない?」 「俺は……あ、僕は」 「『俺』でいいよ」 「……俺も両親のことは嫌いじゃないけど、仲が良いってわけじゃないです。父は漁師で、母は父の獲った魚を加工する仕事をしています。漁の時期は二人とも忙しいから、小さい頃は家でひとりで過ごすことが多かったです。俺が絵を描き始めたのは、ひとりの時間を潰すためでした。描いてると時間を忘れられるんです。絵を描くことは俺の生活の一部だったから、絵の道に進むのが当たり前だと思ってました。でも両親は俺が絵の道に進むことを反対しました。芸術家なんて一握りの人間しかなれないからって」  曇ったままの川原くんの表情から、まだ和解していないのだとうかがえる。
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