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「現役で美大に受かったら行かせてやるって言われて、死に物狂いで勉強しました。学科も実技も。おかげで現役合格はできたけど、いざ家を出るとなると、金がかかるだの色々文句つけてきたんです。大概うんざりしてたから、喧嘩するだけして、家を飛び出してきました」 「住むところは自分で決めたの?」 「はい。家を出てもうすぐ二年になるけど、一度も帰省していません」  せっかくあれだけの才能がある子だ。それを潰してしまうのは惜しい。  ただ、そう僕がそう思うのも、僕が彼と「他人」だからだろう。僕がもし川原くんの親なら、同じように「プロなんて厳しいんだ」と反対したかもしれない。彼に才能があろうがなかろうが、安全で妥当な道を勧める。川原くんの絵を好きになって、川原くんを応援したいから僕は彼の気持ちを理解できるけど、立場的には彼の両親の気持ちも分かるのだ。だから、慰めることも励ますことも、賛同することもしてあげられなかった。けれども川原くんはそんな僕の心境を汲み取ってくれた。       
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