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「福島さんの話聞いて、ちょっと反省しました。なんで俺の好きなようにさせてくれないんだよって両親にはムカついてたけど、親は親で、たぶん俺のこと心配してるんですよね。学費だって結局両親に頼らないと払えないんだから、俺は文句ばかり言える立場じゃないんだよなって気付きました」
歩道橋を上がると、冷たい風が体を叩きつけた。いつの間にか陽が沈んでいて、橋の上から見渡す街はポツポツとライトで彩られる。いつも歩いている街も、少し角度を変えて見てみれば綺麗なものだ。川原くんと一緒にいなければ気付かなかった景色だ。僕は彼よりずっと大人なのに、貰うばかりで何もしてあげられない。情けない大人だ。
「ありがとう、川原くん。相談して良かった」
「こんなのでいいんですか? あまり役に立ってる気がしないんですけど」
「充分だよ。家庭の悩みなんて誰彼言えないからね。聞いてくれるだけですごく楽になる。どうしてだろう、きみにはなんでも話せるよ」
「俺が悪い奴だったらどうするんですか」
いつか僕が彼に質問したことをそのまま言われた。その通りだ。まだ知り合って間もない、互いの呼び名くらいしか知らないような朧げな関係だ。うっかり個人情報なんて話して悪用される可能性だってある。特に僕なんてそういう扱いには注意しなければならない職業だというのに。それでも僕の長年の勘が言っている。
「きみはそんな人じゃないって分かるから」
川原くんは返事の代わりに頬を掻いた。
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