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「帰ろうか。川原くんはどっちなの?」 「あ、この歩道橋渡ったら、もう近いんです」 「そう。僕は戻るんだ。それじゃあ、ここで」  さようなら、とは言えなかった。あわよくばまた会えたらいいと思っているからだ。かと言って「またね」と約束することもできない。 「娘さん、分かってくれるといいですね」 「彼氏と同じ学校に行きたいからって、そんな理由アリ?」 「よくあることだと思います。福島さんは、いいお父さんだと思います。俺の父はどっちかというと粗暴だから、こんなお父さんもいるんだなって」  僕はこんな父親で情けないと常々思っているけれど、そんな父親でもいいのだと言ってくれているようで嬉しかった。やっぱり川原くんといると心が安らぐ。  僕は最後に無茶な我儘を言った。 「娘のことは可愛いけど、実は僕、息子も欲しかったんだよね。キャッチボールとかするの、ちょっと夢だった」 「……」 「一度だけ、抱かせてもらっていいかな」 「え!?」  そして僕は歩道橋という人目の多い場所で、戸惑う川原くんを片腕で胸に抱き寄せた。 さくらを最後に抱っこしたのはいつだったかな。よくぷにぷにして柔らかい抱き心地に幸せを噛みしめたものだ。腕に感じる川原くんは、細くて硬いけれど、あの頃感じたのと同じ温かみがあった。 「息子がいたら、こんな感じだったのかなぁ」 「……俺みたいな息子は大変だと思いますけど……」 「きみはとても良い子だ。これからも応援してるよ、頑張ってね」  マフラーは帰ったら捨ててくれ、と残して、川原くんから離れるや、すぐに歩道橋を駆け下りた。川原くんに振り返ることはできなかった。自分でも驚くほど真っ赤になっている顔を、とてもじゃないが見せられないからだった。
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