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かなえとさくらは日曜の夜遅くに帰ってきた。リビングのソファで新聞を読んでいたら、大荷物を抱えてリビングに入ってきたかなえが「起きてたのね」と、さもどうでもよさげに言った。
「おかえり、実家で休めた?」
「そこそこね。……さくらー、洗濯物出しといてちょうだいよ」
遠くのほうで「うん」と聞こえた。さくらは早々に自室に入ったようだ。帰ったならまず挨拶くらいしろ、とは思うけれど、ここはぐっと堪えて、進路の話をしにさくらの部屋に向かった。半開きのドアをノックする。
「なに?」
「おかえり、さくら。ちょっと、いいか」
今度の「なに?」は、やや身構えた様子だった。僕はかなえに聞こえないようにと、部屋に入ってドアを閉めた。真ん中のカーペットの上に正座すると、さくらも何かを感じたのか、ベッドに畏まって座った。
「さくら、もう一度聞かせて欲しいんだけど、K高志望は今も変わりない?」
「……その話? こないだ進路希望調査表に書いたばっかりだけど」
「じゃあ、今の第一志望はK高なんだな。あのね、お父さんはさくらがどうしてもそこに行きたいなら、いいと思う。だけど、どうしてそこに行きたいのか、理由を聞かせてくれないかな」
あからさまに不貞腐れた表情だが、僕に引く気がないと悟ると、重たげに口を開いた。
「……美術で描いたデッサンを褒められて、……それで、絵を描くのに興味が出たの……」
それは嘘ではないかもしれないが、それだけでは理由として弱すぎる。僕はフー、と息を吐いて呼吸を落ち着け、手に汗を握りながら白状した。
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