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「きっとそこへ入ったら、実技の勉強もいっぱいすると思うよ。付いて行ける?」 「理由がどうあれ、あたしがそこにどうしても行きたいなら構わないって言ったじゃん。どうしても行きたいんだから、それでいいじゃん!」  僕はポケットから手帳を出し、挟んでいる一枚の紙を差し出した。川原くんに描いてもらった絵だ。さくらは警戒しながらそれを取った。開いた絵を見て、眉を寄せる。 「お父さんの知り合いの子に描いてもらったんだ。その人は、小さい頃からずっと絵を描いてきて、美術の学校に入ったよ。そんな子がゴロゴロいる世界だよ。もしK高に入ったあとで、付き合っている子と別れたりしたら、さくらはそんな世界の中でひとりで頑張っていけるのかな」 「……」 「どうしても絵の勉強をしたいなら、お父さんは反対しないよ。でも普通科の高校からでも努力次第で美大にも行ける。もしかしたら三年間のあいだで他のことに夢中になるかもしれない。選択肢は多い方がいいと思うんだ。もう一度、よく考えてごらん」  ちょうど入浴を済ませたらしいかなえが「お風呂に入って!」とさくらを呼んだ。僕はこの辺で終わらせようと立ち上がる。背を向けたところでさくらが言った。うっかり聞き逃しそうなほどの小さな声で。 「……お母さんに何か言われたんでしょ」 「お母さんは知らないよ」 「お母さんにK高やめさせるように説得しろって言われたんじゃないの!?」 「お母さんには何も言ってないし、言われてないし、お父さんが思ってることを伝えただけだよ」 「嘘だっ、だってお父さん、いつもあたしにもお母さんにも何も言わないのに、こんな時だけ説教するなんておかしいよ!」 「……何も言わないのは、何も話してくれないからだよ。知らないから何も言えない。でも知ったら、お父さんはお父さんなりに考えるし、説教もする。悪いけど、お父さんはさくらが本当に絵を好きでK高を志望してると思えないんだ」 「こんな絵見せつけてまで諦めさせようとするなんて狡い!」  さくらは川原くんの絵を力任せにぐしゃぐしゃに丸め、そしてそれを僕に投げつけた。すぐに拾って皺を伸ばす。
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