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 午後八時頃に帰宅すると、ちょうど門の前で娘のさくらと一緒になった。バスケ部のさくらは毎日遅くまで部活をしているらしいが、まだ中学生なのに八時は遅すぎじゃないだろうか。 「おかえり、さくら。部活だったのか?」  さくらは仏頂面のままで返事をしない。まるで僕のことが見えていないように、先に門をくぐった。少しドアを支えて待っていてくれてもいいのに、さっさとバタン、と閉められる。  数秒遅れで家の中に入ると、リビングから妻のかなえとさくらの話し声が聞こえた。僕には愛想のないさくらも、かなえとは普通に話すのだ。 「ただいま」  返事がない。いつものことだが、声を掛けても返ってこないのは虚しい。先に手を洗って着替えを済ませてからリビングに入った。かなえとさくらはダイニングテーブルで食事を始めていて、僕のぶんはかなえの隣に寂しげに置かれている。口を動かしながら振り返ったかなえが、ようやく「帰ってたの?」と言う。 「先に着替えてたから」 「ご飯とお味噌汁、自分でよそって」  これもいつものことだけど、たまには妻によそってもらいたい。これみよがしな溜息をついたら機嫌を悪くさせるので、気付かれないように息を吐いた。  微妙に冷めたトンカツを頬張りながら、かなえとさくらの会話に耳を傾ける。友達の話、部活の話、先生の悪口。時々、会話に参加してみようと「授業のほうはどうだ?」と聞いてみるが、完全無視。そしてかなえもそれに注意などしない。家族三人揃っているのに、ひとりぼっちの空間だ。 「あ、お父さん」  ふいにさくらに呼び掛けられて、パッと顔を上げた。うきうきしながら「なに?」と訊ねる。 「ユニフォーム買うから、お金。六千円」
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