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 ―――  さくらとの話が一件落着したら、川原くんにお礼のメールをしようと思っていたのに、結局大失敗に終わったのでなんの報告もできなかった。せっかくもらったアドバイスを生かせず、情けなくてSNS越しにでも合わせる顔がない。最後に川原くんに会った日から、僕は一度も川原くんの投稿を見ていない。  さくらとも気まずい関係が続いている。いつもなら朝起きると(僕が一方的に)挨拶ぐらいするのだけど、挨拶どころか目も合わせない。  本当なら父親の僕が折れてやるべきなのだろう。けれども可愛い娘と言えども、こう何度もプライドを傷付けられてはそう簡単に折れてやる気になれなかった。  かなえがさくらに好きな子がいることも、高校の志望理由も知っているのかは不明だ。僕から話すべきか悩んだが、ここはさくらが自分から打ち明けるべきだと考えて、何も言わないことにする。  いつにも増して重苦しい空気が家の中を漂う。せめて職場だけでも楽しくいられたら、とは思うのだけど、金の絡む仕事では心は荒んでいくばかり。預金課から毎日のように「現金が合わない」と飛び交う悲鳴、窓口で「ばあさんの財産が残ってないか調べろ」と血眼で無茶を言う客、取引先の大手銀行に馬鹿にされて苛々する上司に、企業へ回って胃を痛めて帰って来る部下。融資を受けるために不正が行われていないか、嘘はないか、常々神経を使う。  なんでもいいから心が休まる時が欲しい。しかし、そんな僕の願望とは裏腹に、悲しいお知らせは続くのだった。  僕に掛かってきた一本の電話。相手は前の支店で一緒に仕事をしていた栗田だ。少し沈んだ声で、栗田は報告してきた。 「『ふるーら』、店、畳むらしいです」
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