きみが眠っているあいだに

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 私は自宅の浴室で、シャワーを浴びていた。お気に入りの外国製の石鹸の、エキゾチックな香りに包まれながら、身体を隅から隅まで洗う。  私は今、行きつけの美容室のスタイリスト、大野と不倫をしている。  べつに、今の生活に不満があるわけではない。夫は一流企業で働くビジネスマンで、一人娘は名門の小学校に通っている。  これは特権なのだ。  ひとにぎりの、裕福な家庭の妻たちにだけ許されている特権。  浴室から出て、脱衣所の鏡を見る。私は幼い頃から、容姿を褒められることが多かった。  高給取りの夫を射止めることができたのも、この美貌のおかげなのだ。  娘が学校から帰ってきた。私は娘を抱きしめる。  「ママいい香りがするー」  さっき使った石鹸の香りがまだ身体に残っている。証拠隠滅は大事なことだ。今の生活、壊したくない。エルメスのバッグに、シャネルのジャケット。夫の運転するメルセデス。  私は幼い頃から玉の輿にのるのが夢だった。両親とも公務員で、暮らしは安定していたものの、生来派手好きな私は、物足りなかった。勉強し、名門、というかお嬢様学校といわれる某大学に入った。その大学は合コンが盛んだった。いろんな大学の男の子たちと合コンした。その合コンで出会ったのが今の夫だった。  午後7時。夫が帰宅する。テーブルに温かい料理がならぶ。家族3人での、穏やかな食卓。  午後10時。娘はもうとっくに夢のなかだ。私は夫に抱かれていた。一日にふたりの男に抱かれる。その幸福。  すべてが終わると私はころっと眠ってしまった。  真夜中。私は大野に抱かれる夢を見ていた。初めてではなかった。私は夢の中でも火遊びに夢中になっていた。私は何度も大野の名前を呼んでいた。何度も、何度も。  「大野くん・・・!」  はっと気がつくと私は夫に抱きついていた。おそるおそる顔をあげると・・・ゾッとするほど冷たい目をした夫が、私の方を見ていた。夫が口を開く。    
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