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その人はたぶん女だった。
だけど、もう人じゃなかった。
髪は荒れ、顔は見るに堪えないほど血と痣で覆われ、元がわからないほど腫れていた。
服はぼろぼろの白装束をまとい、全身を縄で拘束された上に重しをいくつもつけられ、女の前方にいるであろう見えない“何か”に縄で引きずられていた。
それが平行移動に見えていた。
そして身長が低くなっていた理由と謎の不快音の原因。
想像してみて。
手足を拘束されて、さらに重りまでつけられた人間が無理矢理、縄でアスファルトの上を引きずられたらどうなるか。
女は長い距離を引きずられたせいで、道路のざらついた表面で足が少しずつ削られ、磨り減っていた。
酷使された足はもう足とは呼べない、ただの肉の塊みたいだった。
あの音は足の筋肉や骨がすり下ろされる音だったのだ。
この時には僕はもうあまりの恐怖で夢の中でも認識できるほど大量の汗をかいていた。
体は硬直し、その場からは一歩も動けない。
まずい。早く逃げないとダメだ。そう思っても逃げられない。
少しずつ女が、文字通り身を削りながら近づいてくる。
ジゃリュぁギゅちゅガリッぎょりガガっジャりゅりュチゃ、ぎリュるぁぐチャ……
閑静な深夜の住宅街に響く異音。
耳に入るだけで激痛が走るような生々しさ。
僕は吐きそうになるのを我慢するのが精一杯だった。
ぎゅっと目をつむり、ひたすら目が覚めるのを祈った。
すると、音がやんだ。同時に前方の異様な気配も消えた……。
どっと疲れが肩にのしかかり全身から緊張が抜けていった。
ほっとして祈りを止めて目を開けると、目の前にグチャグチャの顔、
そして耳元で
「私じゃない。」
瞬間、夢の世界が閉じた。
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