一話目 「平行移動」

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一話目 「平行移動」

 なんでもない普通の夜のこと、いつと同じように仕事から帰り普段通り寝た日のことだった。 すぐに眠りに落ちて、しばらくして夢を見始めた。 その内容は、僕が一人で夜の住宅街の道にいる。 そしてゆっくり歩き出して辺りを探索する、っていうただそれだけなんだけど、体感で数分変わったモノもない道を歩いてて、 ふと気がついたのは、この道が僕の住んでるマンションに続いてたこと。 いつも通勤とかで使うよく知ってる道だったんだよ。 よく見ると周りの家とか風景が全部完璧にいっしょで、「こんな夢初めて見たな~」なんて思ってた。 そしたら僕から50メートルは離れたところ、目線の先になにやら人が立ってた。 街灯が暗くて、男か女かはわからなかった。 知ってる人かな?とか思ってたら、その人がすぅーと近づいてきた。 不思議なのが足だけじゃなくて全身を動かさずに移動してること。 本当に全く動いてない。 ぴんと直立したままなのに真っ直ぐの道をひたすらこっちに向かってゆっくり移動してる。 今思えば不気味でしょうが無いんだけど、夢の中だからちゃんと思考ができてたわけじゃないし、その時はとにかくどうやって移動してるのかの方が気になってた。 だからゆっくり移動するその人がよく見える位置に来るまで待ってた。 40……30……20……その人がどんどん近づいてくる。 だけど、僕は移動法以外にもおかしなことがあるのに気付いた。 普通、遠くのものが近くに来たら段々大きくなるはずだよね?でも逆だった。 その人の身長がちょっとずつだけど、低くなってる。 それに近づいてくるにつれて、 ごりごりゅっごちゅごりゅ……ジャリジャリジャリュジャリュッ、ギャリガリ…… みたいな擦れたり削れたりする音が聞こえてきた。 耳にこびりつくような気持ち悪い音。 そして、いよいよ10メートルくらいの距離まで近づいたとき、全ての疑問が解決した。
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