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「ええ。ローランド国の王は民を信じておりません。口は慎んだほうがいいかと」
「まあ。厳しいことを言うのね」
くすっとアメリアが笑うとアドニスはなぜか気持ちが和んだ。
もしも敵対することなく、和平の道があればどこかで偶然会っていたこともあるかもしれない。その笑顔を掻き消すのが自分かと思うと、アドニスは気が沈んだ。
メイドがナッツと紅茶を運んで持ってきた。
それが調達出来ただけでも良し、というところだ。
「これしかないんです。よろしければ」
「いただきます」
アドニスはナッツに手を伸ばし、紅茶に口をつける。
渇いた喉に、甘い香りに紅茶が心地良く流れた。
しかし同時に、黄金色の紅茶を見れば顔を歪ませて倒れる指揮官や、殺した衛兵の顔が思い浮かぶ。
吐き気がしそうになるのを堪えて、一気に紅茶を飲み干した。
「大丈夫ですか?」
「ええ。疲れていたもので」
「まだありますよ」
メイドに命じて更に注ぎ足すが、アドニスは水面が見えそうになって手で遮った。
メイドは一礼して下がる。
アドニスは注がれる紅茶をまたすぐに飲んだ。
「相当お疲れのようね」
「いや……」
自分がこれほど取り乱しているのが信じられない。
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