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(アンドレア、という人間をよほど信頼しているんだろう)
身代わりに邸に入ったことを悔いて、アドニスはそっとアメリアの肩に手を置いた。
そして身体から離すと、アメリアは首を傾げた。
「もう大丈夫。そろそろ帰ります」
「でも。シミになります。メイドを呼びましょうか」
「いえ」
アメリアの細長い指先が、自身の服に触れただけでも激しい嫌悪感だった。
無垢な青い瞳が、きょとんと見つめてくるのだってアドニスの心を痛める。
一歩下がり頭を下げると、アメリアがすっと手を引いてきた。
「お休みになってください」
「いや……大丈夫です」
「調子が悪いのでしょう? 部屋なら沢山あります。父もいますから」
「だが……」
アメリアはアンドレアだと思い込んでいるからいいだろう。
しかし、アドニスは年頃の若い娘から突然泊まっていけと言われて、どうしたらいいのかわからなくなった。こんな治安の悪いなか、彼女はどこか無防備過ぎて放っておけないような気もする。
本物のアンドレアが現れないのも、気がかりだ。
「分かりました。一晩だけ」
「お疲れなら、いつまででも。邸に父だけだと物騒ですから」
(だからといって……)
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