第一章

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 よくある話だと思いつつ、アドニスは足に絡まる手を払いのけると大きく開く窓に向かって走り、思い切り飛び出した。  窓は開いているのは分かっているし、そして、その向かいには大木がある。  飛び移ると、すぐに衛兵が呼び集められた。  アドニスは木から飛び降りると、向かいくる衛兵を切りつけながら、裏口から城を後にした。  血まみれの衛兵服は目立つと、外に出るなり脱ぎ捨てる。  下見で見つけていた廃屋まで逃げ込むと、アドニスは息を切らせた。 (着替えて、すぐに街に紛れなくては)  街に住む侯爵として振舞う為に用意した服を麻袋から取り出すと、一瞬埃の匂いがする。  これではいけないと、数回たたき、袖を通した。  返り血はあまり浴びていないが、血の匂いは独特で服を着替えても体に染みついている感じがする。  慣れたとは言い難いが、吐いて気分を悪くするということはない。  散々暗殺者として殺しを続けているのに、自分が血に慣れないのはどうしてだろうと思いつつ、クラバットを首に巻いた瞬間、刺殺した人間の首が自分の手に巻き付くような錯覚に陥って、息が止まった。 (落ち着け)     
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