33人が本棚に入れています
本棚に追加
数回の深呼吸の後、これは『正義の為だ』と自分に言い聞かせた。
あの指揮官を殺さなければ、オーランド国は他国を攻めていたろう。
この国がどれだけ疲弊し、荒れていようとも王の暴走は止まらない。
指揮官を殺したところで足止め程度かもしれないが、彼が有能だということに間違いはなく、国王からの信頼も厚い。
この足止めの間に、交渉の余地が生まれるはずだ。
が、アドニスは着替えを済ませると、自分の前に立ちふさがる金髪の男を思い出した。
珍しく立ち振る舞いが素早く、アドニスの行動を制す者に一瞬戸惑いそうになった。
経験がなければ、不意を突かれていたかもしれない。
「アメリア……」
思わず口をついて出ていた。
婚約者だろう。
愛おしそうに名を呼ぶ姿が、目に焼き付く。
アドニスは首を振り、いつものことだと言い聞かせた。
自分のしたことの裏側には、必ず犠牲になる者がいることは分かっている。
その犠牲の上に平和があり、多数の人の安寧があり、それを守るのが使命だ。
彼の些細な幸せを壊したことに感慨にふける余裕などない。
アドニスは廃屋から抜け出すと、路地裏に衛兵が迫っていた。
急いで表通りに出るとアドニスはすぐに人混みに紛れた。
最初のコメントを投稿しよう!