第一章

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 数回の深呼吸の後、これは『正義の為だ』と自分に言い聞かせた。  あの指揮官を殺さなければ、オーランド国は他国を攻めていたろう。  この国がどれだけ疲弊し、荒れていようとも王の暴走は止まらない。  指揮官を殺したところで足止め程度かもしれないが、彼が有能だということに間違いはなく、国王からの信頼も厚い。  この足止めの間に、交渉の余地が生まれるはずだ。  が、アドニスは着替えを済ませると、自分の前に立ちふさがる金髪の男を思い出した。  珍しく立ち振る舞いが素早く、アドニスの行動を制す者に一瞬戸惑いそうになった。  経験がなければ、不意を突かれていたかもしれない。 「アメリア……」  思わず口をついて出ていた。  婚約者だろう。  愛おしそうに名を呼ぶ姿が、目に焼き付く。  アドニスは首を振り、いつものことだと言い聞かせた。  自分のしたことの裏側には、必ず犠牲になる者がいることは分かっている。  その犠牲の上に平和があり、多数の人の安寧があり、それを守るのが使命だ。  彼の些細な幸せを壊したことに感慨にふける余裕などない。  アドニスは廃屋から抜け出すと、路地裏に衛兵が迫っていた。  急いで表通りに出るとアドニスはすぐに人混みに紛れた。
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