第一章

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 オーランド国は治安が悪化する一方で、金がある侯爵は他国へ逃げていた。  それを食い止める為に徴兵し、家族もろともオーランド国に人質のようにとどめている。  唯一貴族が逃げる手段は、娘を他国の貴族と結婚させることだけだと聞いていた。  こんな状況で、よくわからない相手に嫁がせる親や本人も辛いことだろう。  オーランド国の王は、野心が強く国内のことよりも国外の事で頭がいっぱいで常に戦争を吹っ掛けていた。隣国がひとつ犠牲になり、難民がルート国にも沢山いる。  王の暴徒を止めようと協力態勢を隣国で作ってはいるが、どの国もいつ裏切るか分からない状態だ。オーランド国がもしも火種を撒いたら、それは大陸が一斉に戦争を始める合図となってしまう。  ルート国の王はそうならないよう、アドニスに暗殺を命じているが、自分の存在を疎ましいと思う要人も少なからずいる。  アドニスの暗殺対象がオーランド国以外の要人にならないかと、不信感を募らせているからだ。  確実に狙いを定めて殺害していく能力を、自国の王ならずとも認めている。  アドニス自身は自惚れるつもりもなく淡々と命令をこなしているが、時々、自分は向いてないと思える時がある。  ディーフェンベーカー家は代々暗殺一家の家系だったにもかかわらず、血が苦手で慣れるのにも苦労した。今でも、不快感が残るし、心にわだかまりを残してしまう。  容赦なく鍛えられた筈だし、思想や考え方も叩き込まれたはずなのに、殺害する瞬間にズレを感じて、自分が犯罪者のような錯覚を覚えてしまうのだ。  人を殺した事への嫌悪感だって、消えることがない。  周りの評価とは裏腹に、アドニス自身の自己評価はいつも低かった。  そのせいか、計画は綿密で失敗もない。  慎重になればなるほど、恐れを抱けば抱くほど、アドニスは暗殺者に向いていく。  表向きはルート国の侯爵として振舞い、領地をひとつ与えられ治めている。アドニスが不在の時は父が代わりに領地の主となる。  暗殺の為の手段として、オーランド国でも侯爵として振舞えるよう、邸を買い上げ街に住んでいた。  すでに治安の悪い国に潜り込むのは容易く、詮索されることなく一か月ほど住んでいる。  ひとり要人を殺害したものの、ルート国の王がどう判断するかはわからない。  アドニスは胃がぎりっと痛むのを感じた。 
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