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しかし、その考えはおかしいもののはずだと、アドニスはこめかみを抑えた。
この街を守りたいから戦争を起こすなどばかげている。
しかし、この街は囚われの街だ。
自分の手に何か大きな責任があると思うと、国ひとつ解放できるのではと錯覚し、余計にもどかしさを覚える。
(邸に戻ろう)
アドニスが足を速めた時だった。
すっと手を引かれてはっとする。
「あの……今日うちに来られる方ではありませんか?」
「え? いや、人違いでは」
顔を見られるとまずいと思い、視線を逸らすと小柄な女性がふわりとアドニスの前に立ちふさがる。
「いえ、お顔の特徴がそっくり。会えば分かると言われていたのです。口元にほくろがあって、長身でグレーの切れ長の瞳だと。人違い……ですか?」
「あ……いや……」
そうだ、そう言おうとした時衛兵が人混みの向こうにいるのを捉える。
ここで見つかるわけにはいかない。しかし、見知らぬ令嬢を盾にすることも出来ない。
「どうぞ? アンドレア様でしょう?」
「あ……ああ」
(アンドレア、という者に成り代わり邸に招かれることにするか)
ちらりと令嬢を見れば、ふわりとした金髪とブルーの瞳が印象的な可愛らしい令嬢だ。
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