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愛らしい人形のようで、ローランド国でひとり歩くには物騒ではないかと思える。
そのアンドレアという男が邸で待てと言わなかったことに、少し驚いてしまう。
この治安の悪さは誰もが知るところだと思うし、見ればふらりと出て来たようにも見える。
「おひとりで?」
「ええ。すぐそこだから、メイドもいらないと思ったの。アンドレア様もすぐ見つかると聞いていたから」
「あまりお勧めしません」
アドニスは眉間に皺を寄せた。ひったくりに合うかもしれないし、そのまま人買いに連れ去る可能性だってある。
ぱっと見はいつもとは変わらないようにも見えるが、物騒な人間が紛れているのは間違いのだ。自分も含めて。
「……すみません」
令嬢が頭を下げるので、アドニスははっとした。
「お名前を……」
「まあ、いやですわ。お忘れに? アメリア・ビースレイと申します。一度名乗りましたのに」
「申し訳ない」
(この綺麗な金髪といい、顔立ちといい……どこかで見たような気がする。それに『アメリア』と)
アメリアとは初対面な筈だし、その証拠に彼女も自分を知らなかった。
ではこの既視感はなんだろうか。
『アメリア』と名乗られたときの罪悪感はなんだろう。
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