33人が本棚に入れています
本棚に追加
ついさっき聞いた名前なような気もするのに、どうしてか靄がかかるように思い出せない。
アドニスはもたもたしては衛兵に見つかると、アメリアの手を引いた。
ふっと顔を染める仕草に、はっとして手を引っ込める。
「疲れていて、お茶が欲しいのです。いただけませんか?」
「……ええ」
アドニスは慌てつつ、アメリアの隣を俯きがちに歩いた。
ローランド国の侯爵として振る舞えば、訝しい顔はされないだろう。
アメリアの隣を歩いていれば尚更問題はないはずだ。
人を避けて道の反対側に向かうと、門の前でメイドがそわそわしながら待っていた。
アメリアを見つけるなり、すぐにかけより声を掛けている。
どうやら、ひとり飛び出したらしい。
アメリアはアドニスを招き入れると、正面玄関の戸がゆっくりと開いた。
豪奢なシャンデリアが煌めき、エントランスホールは広い。
しかし、出迎えのメイドや執事がおらずアドニスは眉をあげる。
「他にメイドは?」
「……執事はほとんどが戦地に。メイドは宛てがある者は実家に帰しました。今は数名の執事とメイドでなんとかやりくりを……。これも、前に説明しましたが?」
最初のコメントを投稿しよう!