第一章

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 ついさっき聞いた名前なような気もするのに、どうしてか靄がかかるように思い出せない。  アドニスはもたもたしては衛兵に見つかると、アメリアの手を引いた。  ふっと顔を染める仕草に、はっとして手を引っ込める。 「疲れていて、お茶が欲しいのです。いただけませんか?」 「……ええ」  アドニスは慌てつつ、アメリアの隣を俯きがちに歩いた。  ローランド国の侯爵として振る舞えば、訝しい顔はされないだろう。  アメリアの隣を歩いていれば尚更問題はないはずだ。  人を避けて道の反対側に向かうと、門の前でメイドがそわそわしながら待っていた。  アメリアを見つけるなり、すぐにかけより声を掛けている。  どうやら、ひとり飛び出したらしい。  アメリアはアドニスを招き入れると、正面玄関の戸がゆっくりと開いた。  豪奢なシャンデリアが煌めき、エントランスホールは広い。  しかし、出迎えのメイドや執事がおらずアドニスは眉をあげる。 「他にメイドは?」 「……執事はほとんどが戦地に。メイドは宛てがある者は実家に帰しました。今は数名の執事とメイドでなんとかやりくりを……。これも、前に説明しましたが?」
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