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「ああ。そうだった。何度見ても、慣れないものでね」
「そうですよね。私と父とふたりだけですもの」
「なんだって……」
アドニスは目を見開き、か弱い肩が震えたのを見落としそうになった。
(きっと、それも前に説明されている……はずだ)
「失礼。何度聞いてもこれも慣れないもので」
咳払いをしつつ、アドニスは信じられないと、邸を見渡す。
大げさな嘘だとは思えないが、この治安の悪いなかで父とふたりきりなど物騒で仕方ない。それに、兵の招集がかかれば、父親だって出向かなければいけないだろう。
そんな日がこないとも限らないのに、アメリアは弱さを感じない。
「本当に。こんな風に国が乱れなければ、父とふたりでも気楽でした」
アメリアはティールームに向かって歩き、そっとメイドが扉を開けた。
部屋は綺麗に整っているが、人気がないせいか寂しさを感じる。
ソファに通されてアドニスが腰掛けると、アメリアはスツールに腰掛けた。
メイドがすぐにお茶を持ってくると頭を下げて出て行くと、アドニスは居心地の悪い気分になった。
ブルーの瞳が寂し気に俯いて、何か物思いにふけるようだ。
「お疲れなら、帰りますが」
(外の衛兵もいないだろう)
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