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第一章
壁沿いに立つ衛兵をナイフで一突きし、ずるずると木陰にひきずり着ているものを剥ぐとアドニス・ディーフェンベーカーは敵国ルート国の暗殺者としての顔ではなく、オーランド国の衛兵として、背を伸ばした。
少し丈が足りないようで、袖の裾が短いのが気になるが、一々気にして声を掛ける者もいないだろう。
アドニスは回廊を歩き、オーランド国の要人が集まる会議室を目指した。
オーランド国が自国に宣戦布告しようと、火器を集めているのは聞いている。
国王が好戦的で、国の疲弊を顧みずに行う行為は目に余るものがあると、他国はオーランド国をけん制していた。アドニスは隣国のルート国から派遣され、国王、もしくは要人の暗殺を命じられている。
「おい」
「なんだ?」
「そっちに用はないだろう。その先は……ぐっ……」
素早く後ろに周り込み、首を絞めてナイフで胸に一突きした。
返り血を浴びてはすぐに異変に気が付かれてしまうと、すぐに遺体から離れて会議室へと急ぐ。時間はないようだと、奥の部屋まで走り両扉を開けた。
視線が驚くように、アドニスに注がれる。
一瞬の躊躇の後に、部屋にいた執事や兵士が飛びかかってくるが、ひらりと避けた。
アドニスは国王を探すが、生憎いない。
(ならば……)
作戦指揮官まで一直線に走ると、ナイフを胸に突きたてた。
しかし――。
「ぐっ……」
金髪の兵士が指揮官の前に立ちふさがるようにして倒れ込む。
アドニスの目的をすぐに察知して立ちふさがる勇気といい、敵ながら見事だと思った。
倒れている男を払いのけ、指揮官に向かってナイフを喉に突きたてた。
「ふごっぉぉ……」
「……」
息が出来なくて苦しみながらもがく様を視界にとらえながら、アドニスは立ち去ろうと窓を目指した。
しかし、足を先ほど兵士が掴んでいる。
涙ぼくろのある、綺麗な顔立ちをした男だ。
「悪いな」
アドニスは容赦なく、その男の心臓をめがけてナイフをもう一度突きたてた。
血しぶきが吹くと、泡を吹きながらのたうち回り始め、身体がひくんと大きく跳ねた。
「んっぐぅ……アメリア……アメ……リア……」
(婚約者か?)
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