ムツミとナナコとコーヒーショップの君

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ムツミとナナコとコーヒーショップの君

 2週間ほど前から、ムツミは隣町のコーヒーショップへ通うようになった。 「はあっ、はあっ、はあっ…!」  最初は自転車で通っていたのだが、心無い誰かに盗まれてしまった。また盗まれるかもしれないと思うと、新しく買う気になれない。 (しんどい…)  正直なところ、走るのは得意ではなかった。体力がある方ではないし、何よりパンプスは走りにくい。 (…けどっ!)  それでも彼女は走った。店から少し離れた場所まで、全力で走った。 「……ふう、はあ……」  到着すると、足を止めて息を整える。乱れた髪を手でなでつけ、汗をハンカチで拭き取った。 (あと、服…よし!)  直せるものをすべて直し、正せるものをすべて正してから店へ向かう。  中に入るとすぐに、若い男性店員の声が聞こえてきた。 「いらっしゃいませぇ」 (あっ…!)  ムツミが店に通う理由は、この店員だった。  美しさと爽やかさ、それらに加えてかわいらしさまで感じさせる笑顔が、彼女の疲労を吹き飛ばす。 (今日もいてくれたー! よかった…!)  ムツミは歓喜と安堵の笑顔を浮かべつつカウンターに近づく。店員のすぐ前に立つと、注文するためメニュー表に顔を向けた。 「えっと…」     
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