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ムツミは精一杯の笑顔で彼に会釈しつつ、カウンターから離れる。空いている席のうち、彼の姿が最もよく見える席に座った。
彼女はうっとりした顔で、彼の働きぶりを見守る。
(めちゃくちゃ顔がいい…かわいい……愛想もよくて、ちょっとの変化にも気づいてくれる…最高よね……!)
そう思った直後、店員しかいなかったムツミの視界に、別の女性客が入り込んだ。
(ちょっ…!?)
「いらっしゃいませぇ」
驚くムツミをよそに、店員は女性客に向かってにこやかに挨拶する。それを皮切りに、ムツミを除いたふたりのやりとりが始まった。
「あの、えっと…初めて来たんですけど、オススメって…」
「オススメはこちらですっ。出たばかりの新作なので、お友だちにも自慢できると思いますよっ」
「わぁー! じゃあそれ、おねがいしまーす」
「かしこまりましたぁ」
彼の応対は、他の女性客に対しても丁寧だった。
それを見たムツミの顔が引きつる。
(ううっ…私以外の女に、優しくしないで…!)
彼女の心には、黒い嫉妬の炎が生まれていた。
しかし生まれたのはそれだけではない。つらそうな眼差しの中には、どこか誇らしげなものが含まれている。
(複雑だけど…彼はちゃんと、誰に対しても丁寧なお仕事ができる。それってすごいことよね…ああ、やっぱり彼って最高! 複雑だけど…)
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