ムツミとナナコとコーヒーショップの君

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 そう思いながら、ムツミは店員から視線を外した。自分以外の女性客に優しくする彼の姿は、それが彼の仕事だとわかっていても耐えられなかった。 (気分変えよ…)  彼が作ってくれたソイラテを飲もうと、ムツミはカップに目をやる。側面には彼が手書きしてくれた文字や記号が踊っていた。 (あっ…!)  記号の中にハートマークを見つける。複雑な思いはどこへやら、彼女の顔に笑みが咲いた。 (うふっ、うふふふふっ。彼が書いてくれたハート……ん?)  ハートマークの、右下。  そこに、カタカナの「ソ」を丸で囲んだ文字があるのに気づく。 (ソ…ソイラテ?)  ムツミは首をかしげた。  何気なくカップを回すと、「ソ」から少し離れた位置に商品名を記す欄がある。そこにはソイラテを表す「SL」というイニシャルが書かれていた。 (わざわざ2ヶ所に、しかも書き方まで変える必要ないわよね…ってことは…?)  揺れ動く思いが発想力を刺激する。彼女の脳内に、ある可能性が瞬時に提示された。 (もしかして、彼の名前とか…えっ、マジで!?)  ムツミの心拍数が急上昇した。初めて彼を見た時以来の興奮が、心と体を熱くした。  彼女はいてもたってもいられなくなる。他の客が来ていないのを確認すると、カップを持ったままカウンターに近づいた。 「あ、あの…」 「はい、なんでしょうかっ?」 「この、ソっていうの…」     
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