1 爆音

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 今川六郎は今年で100歳だ。娘の韮子に介護が必要になってしまい、紅って30代のヘルパーがよくしてくれている。2040年、科学は進歩して、ロボットが介護してくれる高級老人ホームも出来た。  80歳以上の高齢者が家族を介護する場合は無料になった。瀬川首相もよくやってくれている。  六郎は1940年に生まれた。太平洋戦争真っ只中、悲しいことばかりだった。両親を失った。  5歳のときに終戦を迎えた。  8月21日、天気予報が復活した。  敵国に天候を知られたらイロイロと不味いからな?  9月に東条英機大将や、杉山元帥たちがピストル自殺をはかったときは報われた気がした。  9月23日、GHQが米軍部放送組織AFRSを開設した。  10月に特高が廃止された。11月にはGHQが財閥解体を決定した。  同じ頃、大相撲の実況中継がはじまった。  戦後初のスポーツ放送だけに熱狂した。  焼け野原で親友の星平蔵とキャッチボールしたりして遊んだ。  永松健生の『黄金バット』や、谷内六郎の『真実一路君』は面白かったな。  音楽は『りんごの歌』や、『眼に入った煙』などが流行った。  日畜工業(日本コロンビア)が蓄音機やレコードの生産を再開。GHQが芝居の仇討ちものや、心中ものの上演を禁止に。怒りは膨れ上がる一方だった。 「買い出し列車とか君は知ってるか?」  病室でお粥を食べさせてる紅に尋ねた。  好青年で、どことなく若い頃の高倉健に似てる。瑛太が高倉健を演じてもいいかな? 「さぁ」  韮子は全く食べなくなってしまった。 「韮子、しっかり食べろ」  韮子ももう84か、あんなに元気だったのに痩せてしまった。 「メイバランスだけでも飲みましょうか?」  栄養がたくさん入った紙パック式のドリンクだ。  紅って男は微笑みを絶やさない。  日本も捨てたもんじゃない。  ボンッ!爆音に身を竦めた。
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