通勤は仲間であふれている

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 ピンポーンピンポーン。プシュー。遠くで聞こえる扉の開閉音で一気に覚醒する。乗り過ごしたのかと思い、飛び上がるように立ち上がった。  自分でも驚くほど、俊敏な動作で背にしている窓からホームを見る。  のどかな田園をバックにした無人駅のホームは、毎日通り過ぎるだけで実際に降りたことは無い駅だ。駅名看板を見ると、嫌な汗が引いていく。再びゆっくりと、シートに腰掛けた。  それから、注目を浴びていることに、ようやく気付いた。こんなオッサンがと思うと、急に気恥ずかしくなった。一年たっても使い慣れないスマホを内ポケットから取り出して、用もなくスクロールする作業に没頭した。  私は、何十年という月日をかけて、日々を淡々とこなすサラリーマンになった。ほぼカレンダー通りのサイクルで同じ電車に乗り、 隣に座る人間もほとんど変わらない。当然、感情はあるし、機械の様に寸分違わずというわけにいかない。  それに、先程の居眠りによるハラハラ感を笑顔の材料に変えたり、毎日が違うという認識をするため、意味のある行為に思えたりするようになったのは、最近になってからだ。  今日は、これだけで妻や同僚への話のネタが出来たと収穫した気分になった。忘れない内に会社に行って、誰かに喋りたい。早く家に帰って妻や娘に喋りたい。     
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