通勤は仲間であふれている

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 現実は、会社の最寄り駅に到着するまで、まだ数駅先である。眠りの深さと裏腹に、時間は、そう経っていない。今日のところは、車内でこれ以上の何かが起こることは、無さそうだ。何十年と通勤してきたのだ。経験で分かる。  無意味なスクロールにも飽きた私は、さっそく手持ち無沙汰になった。仕方なく、吊り革を掴んで、グッタリとしている、目の前の男がつけているネクタイへと、意識をやる。私が立った時、座る場所を確保できると思ったのだろう。吊り革を持った私と同年代の禿げ散らかした男は、私が座り直すとあからさまに落胆していた。いつもより背中が丸まっている。この禿げ頭とは、毎日同じ時間の電車で、毎日同じように席を取り合う仲だ。私が降りる駅を、知らないはずがないので、頭と同じく薄い希望を持ったのだろう。  なぜか行き場のない申し訳なさが、心に残る。態度に出さず気持ちだけで謝り、禿げ頭をバレないように眺める。肌色が見え隠れしている分、黒色が占める割合が薄い。時々、見てはいけない気にさせられる。こちらが気にしては、気に触るだろうと、あえて目を背けない。そんな自己満足な意地と拘りを、毎日みせつけている。禿げ頭も昔は、こんなに薄くはなかったが、ある時から気になるくらいになって、今や立派な薄毛だ。これを見る度に、自分の歳を考えさせられる。     
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