通勤は仲間であふれている

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 とりわけ、語学が好きなようで、これまで韓国語やフランス語の時もあった。流石に『はじめてのアラビア語!これで君もアラビアンナイトと楽しくアラビア会話!』と書かれた本がカバンから出てきた時は、その知識を何処で使うのか気になった。その頃から、彼女のあだ名は、千夜一夜のセンチャンになった。こんな呼び名は、私と家族間だけの便宜上のモノだ。  しかしながら、名付けたからには、情が移ってしまうものである。そういうことで、これまた勝手に彼女にも、親近感を覚えている。  センチャンは、私が下りる駅の二つ前で下車するのだが必ず、親心で見送っている。娘も、これほど立派に育ってくれれば良かった。そんな贅沢な願いをしながら、いつも眠たげな目の娘の顔と、キリリとしたセンチャンの顔を無理に重ね合わせる。  少し物思いにふけ過ぎてしまった。私は、今どのあたりかと、後頭部にある窓から覗くため、首を最大限に捻る。映る景色が、商業地域へと、徐々に変わっていく。田畑が見えなくなり、一旦、工業地帯に差し掛かっている。いつ見ても無骨で長い煙突からは、モクモクと白い煙が出ている。そんな工場がポツポツと街並みに映える。  遥か昔、幼少期には、この辺りの工場で働くツナギ姿の男達に、憧れもあった。だが、取引先の内情を知った今では、全く心動かなくなってしまった。  駅に停まる前のアナウンスが、車内に響く。 下りる予定のセンチャンは、手際よく本やイヤホンをカバンにしまった。華奢で勉強熱心なセンチャンが、工場勤務でツナギを着ているとは、想像出来ない。     
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