コレクター

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 「あたしきれいになる?」あどけなさの残る少女の問いかけに対して、男はそうだねと頷く。男の素っ気ない応えに少女は両手で抱えていた自らの頭部を男に向かって放り投げる。男は慌てて投げつけられた少女の頭部を胸で受け止めるようにキャッチし、その頭部に向かって、投げたら危ないだろとため息まじりに注意するが、少女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。  男が頭部を失った少女の胴体に向かって歩いていく最中も頭部だけとなった少女はぶつぶつと男の態度が冷たいと不満を垂れている。男はふと足を止め、部屋の両サイドに並んでいる収納キャビネットに少女の頭部を納める。少女の頭部が納められた棚には、老若男女の人間の頭部がいくつも並べられており、鼻歌を歌っている首もあれば目がきょろきょろと動いている首もある。「なんでここに並べるのよ」と少女が大きい声を出すが、男は無視をして少女の身体が纏っていた洋服を脱がし始めた。「止めろ、スケベ」と少女が金切り声を挙げて非難するが、男は下着姿となった少女の身体を入念に調べている。男が少女の腕を掴んで、両腕の肘や肩の関節の動きを確かめているとくすぐったいらしく少女はけたけたと笑う。  「本当に転んだだけなのか?」男は少女の膝にある傷の上から人工皮膚用の再生スプレーを適度に吹き付ける。少女は、しつこい男は嫌われるわよと言って右の人差し指で男の胸をつつく。すると、少女の頭部と同じ棚にある頭部たちが口々に男に対して卑猥な言葉や少女へ喝采の声を浴びせ始めた。男は頭部たちに向かって睨むと部屋の中央にある机に置いてあるラップトップへ手を伸ばす。すると、頭部たちは「それだけは堪忍してください」や「赤い血が流れているのか」と口々に騒ぎ始めるが、男はラップトップを操作すると頭部たちが静かになった。「酷いわね。体なしたちは喋るしか能がないのよ」と男が頭部たちへ行った行為を叱責するが、煩くてかなわないんだ、と男が眉間を揉む仕草をすると少女は確かにそうねと渋々ながら認めた。  男は少女の身体の隅々まで傷の有無を調べ関節の稼働を調整し、安堵のため息を漏らした。少女は自分の頭部が胴体に戻ると、「毎度この吐き気が嫌になるわ」と言いながらクローゼットへと向かう。化学の実験室のような設えの中で、クローゼットは木調の家具や調度品が並び、さながら高級ブティックの雰囲気であり少女のお気に入りである。
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