ジョン坊やの旅立ち

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 人生は、旅のようなものである。  女の胎から生まれ出で、死して土に還るまで。そこがゴールなのだ。  全ての人がひとしなみ、旅人なのである。旅し、学び、戦い、家族をなす。それが、人生というものなのだ。  ゲームとしての側面も否定できないが、しかし、人生とはドラマなのだ。  観自在菩薩は、深い瞑想の末に、智慧の次元に到達し、全ての世界が”夢幻のようなもの”であることを悟った。私たちが現実と思っているものも、実際は”夢幻のようなもの”に過ぎないのだと。  何もかもが、そうなのだ。全ての覚者は、その事実を悟っているゆえに、何も恐れず、何にも囚われない。  だからこそ、そのための呪文を教えよう。それは  <いくぞ、いくぞ、みんなでいくぞ、悟りの境地に>  ジョン・コワルスキーは、その誕生のときから奇跡の赤子”ワンダーベビー”といわれていた。生まれたときから類まれな超能力を発揮し、注目を集めたからだが、それが幸せであるのかどうかが、実際は意見の分かれるところであろう。  コワルスキーは、母方の姓である。ジョンは、アメリカに移住してからの名前。  父の姓はウイスキー・・彼のもともとの名前は、イワンだった。アメリカに密かに亡命したときに、母方の姓に替えたのだ。なぜか。  もともとは、彼らはともにソビエト連邦の優秀な科学者夫婦だったからである。夫は、特に優秀の脳科学者にして医学博士だった。そして、人間の脳の可能性を極限まで開放する研究をしていた。  それが成功すれば、無数の天才を生み出し、ソ連の将来に光明をもたらすはずだった。  詳細は不明だが、西洋にも流れる学会誌にその研究の片鱗が紹介されているほどだったのである。そこでアメリカの情報部が動いた。学者に混じった情報部員が接触した。  そのころには、彼は生まれて間もない彼の愛児の脳に、彼の考えた手術を施していたのだった。  夫妻は愛児を抱えて極秘裏にベルリンの壁を越えた。米の情報部ともかかわりがあるハインリッヒという東ドイツの若者の運転するトラックに隠れての逃亡劇。それを思えば、”ジョン坊や”の人生は、旅の連続だったといえる。  そして、悲劇。それがソ連の報復だったかどうかはわからないが、その可能性は否定できない。  米での新たなウイスキー技法での極秘手術実施の寸前に襲撃されたのである。
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