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その日、”そいつ”は、米の情報部が用意した隠れ家に襲い掛かってきたのである。
それは、合州国本国ではなかった。なんと、詳しくは秘密にされているが、在日米軍基地内の上級士官用のマンションの一室であった。
本国でないほうが、ウイスキー博士一家は安全だと考えられたのである。
しかし、そんな秘匿の場所であろうとなかろうと、どうして、自分がその襲撃を予知できなかったのか・・今でもジョンの中では忸怩とした思いが残っている。
しかし、とにかく、ジョンはそれを予知し、両親に警告を発することが出来なかった。
いかに相手が敏腕の情報部員、暗殺者であろうと、ジョンの予知能力をかいくぐることは出来なかったはずだと、確信しているわけで。
自分を神様と同一視するつもりはさらさらないが、実力として人間の平均値を超えた存在だという自覚は在るのだ。
”おじさん、誰?”突然現れた、その長身銀髪の男に、ジョンはテレパシーで問いかける。
テレパシーであっても、その意識は十分に”ただの人”にも通じるものだった。まさに”ワンダーベビー”の面目躍如だった。
しかし、その男は、何も答えない。通じていないわけではないことがジョンにもわかっている。
しかし、応じない。いや、それに対し何らかの反応さえないのだ。
当然ながら、そういう”訓練された特殊な人間”の存在は、当時のジョンの発想の外にいたのだった。それは、実態のある陰、機械仕掛けの人形とでも言うしかない。
「誰だ、君は」父のヨハン・ウイスキーが問う。
「誰でもよかろう。博士一家には、これから、ソ連に帰っていただく」
「いやだといえば?」
「ここで皆さんに死んでいただく、それだけだ」
「ソ連のために?」
「さあ、そのように依頼されているだけだ」
「なるほど、ソ連の工作員ということではないようだな」
「そういう人は、みなマークされていますからね」
「なるほど、フリーランスのスパイか」
「なんとでも」
「で、ここから脱出するにあたって、われわれの身の安全は保障されているのだろうね」
「それは、信じてほしいというしかないな。殺すだけなら、問答無用ですでに殺している」
「なるほど」
「ワンダーベビーの驚くべき情報はソ連でも鳴り響いている。ある意味アメリカでなければ、その隠された才能が開花することはなかったのではないのかというのが、ソ連上層部の考えだ」
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